2022年12月24日土曜日

米国務省紛争・安定化作戦局(CSO)が求めるウォーゲーミング専門家

 米国務省紛争・安定化作戦局(CSO)が求めるウォーゲーミング専門家





 米国務省の紛争・安定化作戦局(Bureau of Conflict and Stabalization Operations)が、ウォーゲーミング専門家を求めている。本ブログの主要テーマの1つである、ウォーゲーミング専門家に求められている能力、という観点から同機関が公開している求人広告内容を眺めてみたい。

 同機関が求める人材が就くポストは計画・監視・評価室「企画・ゲーミング専門官(Planning and Gaming Specialist)」というものであり、CSOの企画方アドバイザーとして計画・戦略企画執行及び関連の戦略企画に従事することになる。勤務場所はワシントンDCである。

 主要任務の中身は、

  • 机上演習(TTX)を利用して主催国と市民社会のパースペクティブを長期的な安定化戦略に統合、または戦略履行に関する協力関係の調整、
  • 大量殺戮に備え不測事態対応の計画、
  • 国務省指導部が要請する「低蓋然性・高烈度シナリオ」の計画の展開、
  • 国防省の安定化作戦計画の強化、

 である。

 さらに、具体的な役割は次のとおりである。

  • 各種計画の枠組みの更新し政策サイドのニーズへの対応を定型化、
  • 紛争・安定化作戦局の企画官育成のため、訓練専門官及び企画補佐官と協力して戦略企画・ゲーミングの訓練を開発・実施

 そして、要求される専門性は、

  • シナリオ企画、
  • 戦略的ゲーミング、または
  • レッド・ティーミング分析技法、

である。

 勿論、国家公務員に足る「秘密取扱者適格性確認(クリアランス)」をクリアしなければならない。

 さらに、紛争解決等専攻、修士号以上の学位取得、海外留学・勤務経験があればなお望ましい。

以上を見ると、かなりハードルは高い。ウォーゲーミングに関する能力のみならず、+アルファの部分がかなり多い。むしろ、ウォーゲーミングに関する専門性は前提で、+アルファの部分が採用の決定要因となるであろう。

但し、この場合のウォーゲーミングに関する専門能力は、低蓋然性・高烈度シナリオ作成能力、レッド・ティーミング、教育・訓練能力も含むものであり、単なるウォーゲーム・デザインのレベルを越える、いわば万能型(all-in-one type)の能力に近い。

現在欧米ではウォーゲーミング専門家のジョブ・マーケットが激しく動いているようなので、このポストがどの程度早期に埋まるか見ものである。


(了)

2022年12月10日土曜日

提言 日米両政府によるウォーゲーミングの定例化(笹川平和財団)

提言

日米両政府によるウォーゲーミングの定例化

 12月9日、笹川平和財団より政策提言日米両政府によるウォーゲーミングの定例化」が出ました。

 ご意見等あれば宜しくお願いします。

             (了)

2022年12月9日金曜日

ウォーゲーミングにおけるコンピュータ利用に関する研究例

 ウォーゲーミングにおけるコンピュータ利用に関する研究例の紹介


 コンピュータとウォーゲーミングの関係は、ウォーゲーミング研究において長年のテーマです。元英国防科学技術研究所(dstl: Defence Science and Technology Laboratory)のウォーゲーミング専門家である友人から教えてもらった、この問題に関する最近の論文を紹介します。
 米国にある Improbable, US Defense and National Security という防衛技術(特にソフト)に特化したスタートアップの研究者2名が発表した "Effectively Integrating Technology into Wargames" は、ウォーゲーミングにおけるコンピュータの利用について、500名以上のウォーゲーミング専門家に対するインタービュー調査の結果を基に裁定、有用性、没頭度、分析(analytics)の4つの点で検討しています。

 技術開発者たる同論文筆者たちの問題意識は、コンピュータ(ソフトを含め)をいかにウォーゲーミングに統合するか、ということのようですが、本ブログ筆者はコンピュータは特に裁定、経過表現(動的グラフ等)、そして分析に有用と考えています。勿論、それはソフトに備わっているAI機能の有用性も含めてです。要はデザインする側がコンピュータ利用が必要な場合いかにその強みを活かすかということです。不要であれば使わなければよい。当然ですが。

(了)

2022年12月4日日曜日

レッド・ティーミングのサイト紹介の続報

 

レッド・ティーミングのサイト紹介(続報)


 以前本ブログで紹介したレッド・ティーミングについての続報です。


米軍統合ドクトリン

 "Command Red Team", Joint Doctrine Note 1-16, 16 May 2016, US DOD

米軍教育機関

 "Red Teaming Courses and Education", University of Foreign Military and Cultural Studies US Army(同機関の課程紹介サイト


 米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)のウォーゲーミング・コミュニティーで今になってこうした情報収集及び共有が急速に進展しています。

(了)

2022年11月30日水曜日

Connections Online Showcaseの動画公開(P Sabin's "Take That Hill" is cool!)

Connections Online Showcase の動画公開



 

 10月19日に開催された コネクションズ・オンライン Shocase の7セッションの動画が公開中です。
 フィリップ・セービン(Philip Sabin)教授の元気な御姿が印象的です。ロンドン大学キングス校退職後も、ウォーゲーム作成に御多忙なのですね。結構なことです。

(了)

2022年11月29日火曜日

「ウォーゲームでないゲームは何か?」What is not a wargame?

 「ウォーゲームでないゲームは何か?」

What is not a wargame?

Natalia WojtowiczがコネクションズNLでの議論に関連して、「ウォーゲームでないゲームは何か?」というBig Questionを提起しています。
 Natalia Wojtowicz on Twitter :
What is not a wargame?
In other words, how would you exclude games from the wargaming category?
Can we...?
 本ブログ筆者の回答は次の通りです:
"War" now being taken to mean more than "military,"one may have to take at least the following two steps: return to any of classical definitions to limit the area of "wargame" by including elements of military conflict; and then exclude any game without those elements. 😅


(了)

2022年11月21日月曜日

Connections Japan Pre-Launch! を最初のブログに付加

 Connections Japan Pre-Launch! を付加


 これでコネクションズ・ジャパン開始の経緯を含め全てのリンク付けが終わりました。
 そろそろ、本ブログの所期の目的は達成されそうです。
 応援して下さった皆様、有難うございました!

(了)

2022年11月19日土曜日

コネクションズ・ジャパンを最初の頁に付加

 


コネクションズ・ジャパンを最初の頁に付加


 コネクションズ・ジャパンを本ブログの最初の紹介ページに付加しました。

憂事有時のウォーゲーミング: 日本のためのウォーゲーミングのススメ


(了)

Connections Japan 2022、初回オンライン開催終了

Connections Japan 2022、初回オンライン開催終了


 11月15日(火)、初のコネクションズ・ジャパン終了。本ブログ筆者は部分参加しかできなかったが、まずは「祝 初回開催」といっておきたい。
 恐らく、今後防衛研究所のYoutubeチャンネルで会議の模様が視聴可能となるであろう。海外から様々な反応があろうが、来年以降の資としてもらいたい。継続は力なり!
 また、海外のコネクションズの事例からすれば、公式な主催者とは別の、有志による類似の会議が今後続出すれば、日本のウォーゲーミング・政策シミュレーション界も一層活性化するのではないだろうか。出でよ、有志! 戦え、同志!

 Congratulations on the launch of the first-ever Connections Japan Conference!
 I hope there will be some follow-up gatherings, whether official or non-official (non-governmental), in the near future and that the next year will be fully inperson.
 Now Connections Japan should be admitted to the Connecdtions Community. Cheers!

(了)

2022年11月12日土曜日

最新のウォーゲーミング用語集

 

最新のウォーゲーミング用語集


 英米中心のウォーゲーム開発会(The Wargame Developments)が用語集(詳細解説含む "Handbook")を更新しました。初版は1984年、第2版は1995年に発表されました。そして今回は第3版となる由。歴代の編集者は錚々たる面々です。最新版はここで入手できます。
 また、米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)も既に2018年にウォーゲーミング用語集を発表しています。こちらで入手できます。

(了)



2022年11月8日火曜日

「米国務省も独自のウォーゲーミング機能を持つべし」(米元外交官ロバート・ドメイング)

 「米国務省も独自のゲーミング機能を持つすべし」


 元米国務省職員・外交官のロバート・ドメイングが、「米国務省はゲーミングについてはペンタンゴンや情報コミュニティーに比べ大きく遅れている」として、省内で独自かつ統合的にゲーミングをデザイン・実施できる機能を持つべきだとする論考を発表しました。「外交ゲーミング局設立」を提唱しています。彼の主張は Journal of Foreign Service に掲載されています。
 彼は現役の時に本ブログ筆者が米コネクションズで主催したシナリオ・ワークショップに参加してくれました。現在、ウォーゲーミング普及のための言論を活発に展開している他、特に気候変動に関するゲーミングに力を入れている由。

(了)

2022年11月4日金曜日

Rubel教授の提言「ウォーゲーミングを再び米海軍大学教育の中心に」

 Rubel教授「ウォーゲーミングを再び米海軍大学教育の中心に」


 米海軍大学名誉教授であるRobert Rubelの提言です。The Center for International Maritime Security (CIMSEC)のHPに掲載されています。

MAKE WARGAMING CENTRAL TO NAVAL WAR COLLEGE EDUCATION ONCE AGAIN


 特に、コメント欄にコメントしている面々が大御所クラスで、ちょっと感動的。


 日本のウォーゲーミング界、そして特に自衛隊教育機関・各種学校には有益な示唆があろうかと思料します。

 ご参考迄。


(了)

2022年11月2日水曜日

リマインダー: 米軍事オペレーションズ・リサーチ学会主催「太平洋の米同盟諸国とのウォーゲーミング」に参加しよう!

 

 リマインダー

米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)主催「太平洋の米同盟諸国とのウォーゲーミング」に参加しよう!


 米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)がハワイで「太平洋の同盟諸国とのウォーゲーミング」をテーマとした特別会議を開催します。

 期間は2023227日~31日(3日間)

 詳細については、こちらで。

 先着100人で締め切りですが、「コネクションズ・ジャパン2022」参加者は優先される由!


(了)

2022年10月28日金曜日

速報 政策シミュレーション国際会議 「コネクションズ・ジャパン2022」開催 (International Conference on Policy Simulation "Connections Japan 2022")

 速報

令和4年度政策シミュレーション国際会議

「コネクションズ・ジャパン2022」開催

(International Conference on Policy Simulation "Connections Japan 2022")


 待望の企画が実現します。

 11月15日(火)0900~1605(オンライン)

 登録はこちらから。(To register in English, visit Here.)

 

(了)

速報 米軍事OR学会でウォーゲーミング奨学金制度開始!

速報

米軍事OR学会(MORS)でウォーゲーミング奨学金制度開始!


 遂にそういう時代に入ったということです。学位、資格、ときたら課程入学奨学金。当然の成り行きですね。恐らく、他の機関、他国もそういう流れになっていくのではないでしょうか。いや、既に他の場所で静かに始まっていても不思議ではありません。

 まずはPAXsimsのサイトで御確認下さい。

 または、直接以下の情報をMORSの担当者に送ることもできます。

  •  Name
  •  Current Academic Institution
  •  GPA
  •  Reason for wanting to take the class
  •  Resume/CV (optional)

 連絡先:Elizabeth Marriott (liz.marriott@mors.org)


 果たして、日本は...。


(了)



2022年10月27日木曜日

速報 コネクションズNL(オランダ)2022 開催予定

 速報

コネクションズNL(オランダ)2022 開催の通知


 今年のコネクションズNL(オランダ)開催のお知らせです。開催日は11月28日(月)の由。

 詳細についてはコネクションズNLのサイトにてご確認下さい。


(了)

軍におけるレッド・ティーミングに関する資料集( Military Red -Teaming Material Collecdtions)

 軍におけるレッド・ティーミングに関する資料集

 
 軍におけるレッド・ティーミングに関する公開資料へのリンク集です。
 この数年欧米では真っ先に言及されることが多い英国のハンドブック(以下の"Red Teaming Handbook)が有名ですが、それ以前に豪州でもハンドブックが出ていたのですね。MORSの友人から教えてもらいました。この機会に、有益と思われるPDF資料、そしてGUWSのオンライン講演のビデオをご紹介します。(GUWSを除き、出所については具体的な教育・研究機関名ではなく「〇〇軍関係」としておきます。)
 なお、GUWSの動画の方は、本ブログ筆者の専門地域たるNK関連であり、個人的に興味深いです。懐かしい先達の名前にも言及があるので。

米陸軍関係:The Red Team Handbook

英軍関係:Red Teaming Handbook



GUWS:ウォーゲーミング研究会:Breaking Bad: How to Get the Best Adversary for Your Wargame

 本ブログ筆者の勝手な所感ですが、各国のレッド・ティーミング研究はインテリジェンスの観点からも重要です。ミラー・イメージ問題を回避しながら、いかに正確に脅威評価を達成するかという重い課題に、各国がどのようにアプローチしているかを知るヒントにもなるからです。米国の冷戦期の対ソ脅威評価は過大であったと批判されることが多いようですが、過大評価は常にマイナスなのでしょうか? 完全に正確な脅威評価が不可能とすれば、過ぎたるは及ばざるより勝る、はその逆よりはましということはないのでしょうか? これは単なる問題提起です。

(了)

2022年10月24日月曜日

核爆発・ミサイル着弾効果のシミュレーションサイト

 核爆発およびミサイル着弾効果のシミュレーションサイト

米スティーブンス工科大教授で核兵器開発史が専門のアレックス・ウェラースタイン(Alex Welerstein)が開発した、核爆発及びミサイル着弾の効果を計測するシミュレーションサイトを紹介します。

日本の報道でも紹介されたそうですが、本ブログ筆者は知りませんでした。友人であるオランダのミサイル技術専門家から紹介してもらいました。

核爆発については、標的の都市名、出力、被害者数計算が必要か否か、放射性降下物計算が必要か否か等入力すれば結果が出ます。

また、ミサイル着弾については、射程距離、標的の都市名、ミサイルの種類等入力すれば結果が出ます。

英語のサイトですが、色々とシミュレーション結果を出してくれますので、試してみては。

  • 核爆発シミュレーション(NUKEMAP
  • ミサイル着弾シミュレーション(MISSILEMAP

 民間シンクタンクのウォーゲーミングや政策シミュレーションの疑似裁定等の支援ツールには使えるかもしれません。

 

(了)

2022年10月19日水曜日

続報 米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" のプログラム

 続報

米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" のプログラム


 10月19日(米東部時間)開催予定の米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" のプログラムが公開されました。

 詳細についてはこちらでどうぞ。


(了)

2022年10月15日土曜日

速報 米軍事オペレーションズ・リサーチ学会主催「太平洋の米同盟諸国とのウォーゲーミング」

 速報

米軍事オペレーションズ・リサーチ学会主催「太平洋の米同盟諸国とのウォーゲーミング」


 米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)がハワイで「太平洋の同盟諸国とのウォーゲーミング」をテーマとした特別会議を開催します。

 期間は2023227日~31日(3日間)

 詳細については、こちらで。

 なお、先着100人で締め切りとなりますのでご注意下さい。


(了)

2022年10月13日木曜日

速報 ウクライナと台湾を巡るウォーゲーム・デザインに関するオンライン講演(カナダのコンコーディア大)

 速報

ウクライナと台湾を巡るウォーゲーム・デザインに関するオンライン講演シリーズ


 ウクライナおよび台湾を巡るウォーゲームをデザインした著名なデザイナーたちによる講演のシリーズのお知らせです。主催はカナダのコンコーディア大学です。以下、英語による紹介ですが、台湾関係にご関心がある方は11月10日が狙い目です。錚々たる講演者たちの略歴等の詳細については、マッギル大(カナダ)のRex Brynen教授が運営するPAXsimsのサイトでご覧下さい。

The Concordia University political science students’ Strategic and Diplomatic Society and the Canadian Centre for Strategic Studies welcome you to their speaker series on the subject of Wargame Design of the Taiwan and Ukraine Conflicts. We have invited the leading simulation designers of the last sixty years, many of whose commercial wargames have anticipated and predicted the outcomes of wars.

Time: 19:00-22:00 Eastern Standard Time

OCT 13           Frank Chadwick 

OCT 20           Charles Kamps 

OCT 27           John Prados 

NOV 3            Mark Herman 

NOV 10          Joseph Miranda 

NOV 17          David Isby

Format: The special series comprises a 30-minute presentation, followed by a 30 minute questions and answers, a 15 minute break, followed by an hour and 45 minute interactive workshop where the speakers will engage in a free form consideration of simulating important aspects of contemporary conflicts. Contact: Prof Julian Spencer-Churchill, julian.spencer-churchill@concordia.ca


(了)

2022年10月9日日曜日

核兵器の使用を含むウォーゲーム: 印パ "Showdown" の事例

核兵器の使用を含むウォーゲーム:

印パ "Showdown" の事例

 核兵器使用を含むウォーゲームのデザインには特別な工夫が必要であり、ウォーゲーム・デザイナーが最も力量を発揮すべき対象かもしれない。というのは、核使用については核ドクトリンに関するサブジェクト・マターの専門的知識およびそれへの配慮が求められるからである。本ブログ筆者の周囲では、米ソの冷戦をテーマとした有名な Twilight Straggle: The Cold War, 1945-1989 (GMT Games, 2005) は、プレーヤーに核戦争リスクを意識させるDEFCON(米国版事態認定)が組み込まれている戦略ゲームとして比較的高評価を得ている。本ブログ筆者は2019年にリリースされたデラックス版を自分で購入してプレーしてみたが、まさに米国式事態認定およびそれをめぐる意思決定過程の疑似体験をするには有用と思う。今や、DEFCONは様相を変えてサイバー・宇宙領域にも拡張され、ボードゲーム以外でも応用されている。
 しかし、他方で、かなり「物議を醸しそうな」ウォーゲームもある。例えば、Eric Harveyがデザインした Showdown: The Coming Indo-Pakistan War (Decision Games, 2010)では、核兵器の先行使用(Nuclear First-Use)について特別な条件が付帯されており、さらにそれを正当化するデザイナーによる注釈が付記されている。このウォーゲームでは、国力および核兵器保有数(初期条件ではインド8個、パキスタン6個)を考慮し、パキスタンに有利と思われる条件設定がなされている。

 勝利条件:
  •  インド パキスタンの4都市を占領(但し、パキスタンに1都市でも占領されたら撤退しなければならない。)
  •  パキスタン インドの2都市を占領
 パキスタンによる先行使用:
 インドがパキスタンの1都市を占領した場合(但し、パキスタンが実際に核の先行使用に踏み切るかは、サイコロで決定。この場合、サイコロの目が占領された都市と同一な場合は、保有範囲でいくつ核兵器を使用してもよい。)

 上記より明らかだが、そもそもインドおよびパキスタンの保有核兵器数は少ないし、パキスタンに極めて有利な条件が設定されており、通常レベルと核のレベルの国家の意思決定の相違への配慮が希薄なようであり、その他の様々な重要な要素が単純化されている等、当初から多くの批判が予想された。本ブログではデザイナーであるHarveyが注釈で展開している「言い訳」については詳細を記さないが、このゲームがリリースされた2010年以降、インドが核ドクトリンを変更して先行不使用を放棄したとの報道もあり、こうした変化を考慮してゲーム更新の必要も主張される可能性がある。
 しかし、驚くべきことに、論争を呼びそうなこのウォーゲーム、欧米の一部の軍の教育機関で教材として利用されているのだ! 本ブログ筆者がこの事実を知ったのは2020年のコネクションズ・オンラインの場であるが、本ブログ筆者はこのゲームを2017年の米コネクションズのゲーム・ショップで購入し、既に何度かプレーしていたので内容および問題点を知っていただけに、軍の教育機関で教材として使用されていることに感動してしまった。教材となっている理由は、まさに学生に「究極の意思決定を疑似体験をさせるのに有用」というものだった。
 皆さんも試しては。(現在のところ品切れのようですが...。)


2022年10月7日金曜日

続報 米コネクションズ "ショーケース" 登録料は3米ドル

 続報

 9月28日に御知らせした 米コネクションズ "ショーケース"(10月19日開催)について、登録料は、3米ドル(IT費用)、とのこと。


2022年10月4日火曜日

速報 コネクションズ・ノース(カナダ)2023開催について

 速報

コネクションズ・ノース(カナダ)2023開催について


 日時・場所等について、以下のように決定した由:

日時:2023年6月9日

場所:カナダ戦争博物館(Canadian War Museum)(オタワ)

形式:対面

備考:同時期、カナダ戦争博物館で新規「ウォーゲーミング・エキシビジョン」公開予定

 

 プログラム等詳細については追ってお知らせします。


              (了)


2022年10月3日月曜日

ウォーゲーミングの学術・政策連結: 英国の場合 (ロンドン大キングス校ウォーゲーミング・ネットワーク)

ウォーゲーミングの学術・政策連結:
英国の場合
(ロンドン大キングス校ウォーゲーミング・ネットワーク)

 英ロンドン大学キングス校の研究者でキングス・ウォーゲーミング・ネットワークの主催者であるIvanka Barzashka(NATO専門家)が2019年に発表した論考 "Wargaming: how to turn vogue into science" を紹介します。
 同論考は、英国が2015年以降の米国でのウォーゲーミング重視の動きに倣い、どのようにウォーゲーミングが展開しているのか紹介するとともに、ウォーゲーミングをいかに「科学化」すべきか等について論じいます。また、最近の英コネクションズ・オンラインで確認されたウォーゲームの「査読」についても記述されています。
 著者のイヴァンカさんは英国・欧州のウォーゲーミング界の重鎮Philip Sabin教授の後継者とされていますが、Sabin教授とは異なり、英コネクションズとは若干距離感があります。しかし、学術的な戦略研究とウォーゲーミングをより「科学的」に結び付け、そうした営みの成果を実際の政策に反映させようと頑張っておられます。ウォーゲーミングの「科学化(必ずしもM&S化そのものではない)」には賛否両論あるでしょうが、不断の方法論的・分析的改善を志向する本ブログ筆者としては、むしろ肯定的です。
 なお、本ブログ筆者が特に注目したのは、冒頭でRANDのDavid Shlapakが2017年に米下院公聴会で紹介した「ロシアによるバルト3国侵攻シナリオ」です。RANDでは同シナリオに基づく複数回のウォーゲームにより、ロシアが36~60時間でNATOのバルト3国防衛を打破してしまうという結果が出たそうです。しかし、戦車、歩兵戦闘車輛、自走砲等を増強した3重装備旅団を投入すれば、ロシアの計算を大幅に変える可能性がある由。
 結局、ロシアが軍事侵攻したのはウクライナでした。また、米国もその他のNATO諸国も直接的軍事介入はしていません。しかし、だからといって、RANDが行ったウォーゲームが無意味だったと即断すべきではないでしょう。本ブログ筆者は、今後この点を研究してみたいと思います。
 ちなみに、Shlapakの証言の動画は、イヴァンカさんの論考の本文にリンクがあるのでそちらからどうぞ。また、証言用に準備されたペーパーは、こちらからダウンロードできます。

(了)

2022年9月30日金曜日

番外編:米経済安保シンクタンクの報告書「ロス・アラモスクラブ」

 番外編

米経済安保シンクタンクの報告書「ロス・アラモスクラブ」

 経済安保系の筋金入りシンクタンク "Strider Technologies, Inc." が公表した報告書「ロス・アラモスクラブ」、現在のところ日本ではまだ知名度は低いようなので、本ブログで簡単に紹介したい。

 同シンクタンクは、中国、ロシア、そして技術の専門家によって創設された米国の経済安保(economic statecraft)系インテリジェンス・シンクタンクである。報告書「ロス・アラモスクラブ」は、1987年~2021年にロス・アラモス国立研究所で戦略的機微技術の研究に従事した総勢162人の中国人研究者が、中国に帰国して祖国の軍事技術向上に貢献した可能性を指摘している。貢献した技術として、超音速技術、ジェットエンジン、地下貫通型弾頭、自律型無人機、無音潜水艦等が挙げられている。また、同報告書には、中心人物やネットワークについても具体名を挙げて記述されている。

 ちなみに、地下貫通型弾頭技術は、米国ではオバマ政権の時代に費用高額を理由に開発が中断されたのではなかったか。中国が同技術を取得し、豊富な開発費でさらに向上させているとすれば...。

 報告書はこちらからダウンロードできる。

(了)

経済安全保障時代のビジネス・ウォーゲーミングのススメ

経済安全保障時代のビジネス・ウォーゲーミングのススメ

 ビジネス・ウォーゲーミング(Business Wargaming)は、1950年代後半、軍事におけるウォーゲーミングの発展を受けて、主に社員の教育・訓練を目的に "business gaming" や "management simulation" として始まったとされる。企業の危機管理能力開発として、オイルショックを契機にシナリオ・プランニングが有用なツールとして活用されてきたように、欧米ではビジネス・ウォーゲーミングもそれなりに注目され、非公開の場で活発に実施されているようである。このことは、各国のコネクションズに参加していればよくわかる。

 このビジネス・ウォーゲーミング、当初の教育・訓練という限定的用途から発展し、今では戦略企画・検証(テスト)、危機管理準備、先見性錬磨、経営転換、人材発掘等幅広く応用されている。

 経済安全保障が益々重要になっている今、不拡散問題における経済制裁に関する諸課題への検討と併せ、政府・軍も産業界・企業との共同ウォーゲーミングにも視野を広げる必要があろう。他方、特に日本の産業界・企業の側も、ビジネス・ウォーゲーミングを危機管理を含む安全保障の観点から意思決定のツールとして積極的に学習する必要があろう。

 政府と企業の連携が不可欠な経済安全保障において、ビジネス・ウォーゲーミングは連携の在り方を含め多くの点で有益な示唆を与えてくれるのではないだろうか。

参考:Daniel F. Oriesek and Jan Oliver Schwartz, Business Wargaming: Securing Corporate Value (GOWER, 2008)


(了)

2022年9月28日水曜日

論考紹介 米国の太平洋抑止構想に見るウォーゲーミングの新展開

 論考紹介

米国の太平洋抑止構想に見るウォーゲーミングの新展開:

日本もこの意思決定ツールを大いに活用すべし

 

 本ブログ筆者の寄稿です。本文は笹川平和財団のサイトでどうぞ。


(了)

 

 

速報 コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" 開催!

 速報

米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" 開催!

 10月19日、1日限りの米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" が開催されます。参加登録は9月29日開始です。

 詳細はこちらでどうぞ。


(了)


2022年9月25日日曜日

続報 ハンガリーの "コネクションズ"、正式になのるのは来年?

 続報

ハンガリーの "コネクションズ"、正式になのるのは来年?

 昨日速報した本件、担当者曰く「正式に "コネクションズ" となるのは来年かも」。

 いづれにせよ、要は経験ですね。お互いしっかりやっていきませう!

(了)

2022年9月24日土曜日

速報 ハンガリーの "コネクションズ" ウォーゲーミング国際会議

  速報

ハンガリーの "コネクションズ" ウォーゲーミング国際会議

 10月26日、ハンガリーでも "コネクションズ" が開催されます。昨年は内部オンリーだったようですが、今回は「国際会議」です。但し、フランスと同様にConnectionsとは名乗っていません。使用言語は英語・ハンガリー語です。

 詳細はこちらにて。

(了)

2022年9月23日金曜日

ウォーゲーミング専門家に求められる能力:米軍事OR学会(MORS)ウォーゲーミング研修の場合

 

ウォーゲーミング専門家に求められる能力:

米軍事OR学会(MORS)ウォーゲーミング研修の場合

 先日の英コネクションズ・オンラインで提起された論点に、ウォーゲーミングの専門家育成において、デザイン能力と分析能力のどちらを優先すべきか、特に大学等の教育機関において、教師は学生にどちらに重点を置くように教育すべきか、というのがありました。一見無意味な質問と思われるかもしれませんが、就職活動で自分の「売り」をウォーゲーム・デザイナーとするかウォーゲーム・アナリストとするか、若い人たちには悩ましいことかもしれません。

 では、世界各国の政府・国防当局や企業が求めているウォーゲーミング専門家の専門性/能力とは、どのようなものなのでしょうか? ウォーゲーミングは学際的な分野であるといわれます。そうであれば、ウォーゲーミング専門家は人文・社会科学系のみならず、自然科学・工学系の素養もあった方がよいということになるでしょう。

 今回は、米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)ウォーゲーミング専門家研修課程において、研修以前にある程度備えていることが望ましいとされる知識・素養について紹介します。


 研修前にある程度備えていることが望ましいとされる知識・素養:

https://www.mors.org/Events/Certificates/Certificate-in-Wargaming

  • 分析・訓練を目的としたウォーゲームに関する研究、デザイン(計画)、開発、実施、分析、報告に必要な能力、アナリストとしての能力および知識
  • 定量的技能:数学、統計学、データ分析、形式論理、計量経済学、モデリング&シミュレーション(M&S)、オペレーションズ・リサーチ(OR)、ゲーム理論
  • 定性的技能:国際関係学、政治学、経済学、歴史学、軍事史、社会学、人類学、経営学(ビジネス)、教育学、心理学
  • 実践的技能:発表技能、プランニング技能、アート・グラフィックデザイン、フィジカルシステムデザイン、データ収集、ドメイン専門技能、ホビー・ゲーミング
  • その他の技能:エクセル、ワード、パワーポイント、グラフィックデザインソフト、データベース言語・SQL、プログラミング言語※ 粗訳失礼!)

 上記全てが事前に求められるという訳ではないでしょうが、結構ハードルは高そうです

 また、課程のプラグラムは以下のとおりです。

日目 デザイン

l  ウォーゲームとは何か

l  ウォーゲームとレッドティーミングの関係は?

l  デザイナーはいかにウォーゲームをデザインするか?

2日目 アート(デザイン活動としてのウォーゲーム)

3日目 特別トピック

l  戦略的ゲーミング

l  ファシリテーション

l  ゲーム資料の作成

日目:分析

 l  アナリストはいかにウォーゲームをデザインするか?

 l  いかにウォーゲームを分析するか?

日目:実習

 最後に、参加費用についてはMORSのサイトで御確認を。相場については容易に判断できませんが、例えば米戦略国際問題研究所CSIS)シニア向けのプログラム(https://www.csis.org/programs/executive-education/global-policy-courses/wargaming-constructing-simulations-and)よりは安く、ファシリテーション一般のプログラムとほぼ同程度といったところでしょうか。期間や講師陣の顔ぶれも重要な判断指標となるでしょう。

(了)

2022年9月22日木曜日

"The Cycle of Research" から "The Cycle of Learning" へ

 "The Cycle of Research" から "The Cycle of Learning" へ


 ウォーゲーミング界の"大御所"といわれるピーター・パーラ博士が、1990年に提唱した"The Cycle of Research"を発展させて"The Cycle of Learning"という概念を提唱しています。「同論文を引用する際には、DOIを記載して欲しい」由。

Perla, P. (2022). Wargaming  and The Cycle of Research and Learning. Scandinavian Journal of Military Studies, 5(1), pp. 197208. DOI: https://doi.org/10.31374/sjms.124

(了)



2022年9月18日日曜日

速報 豪コネクションズ(Connections Oz)2022参加登録開始!

 

速報
豪コネクションズ(Connections Oz)2022の参加登録開始!


開催期間20221214日(水)~15日(木)

場所:豪州国防大学(Australian Defence College, Canberra

形式:対面(一部オンライン参加も検討中)

参加登録先 URLhttps://connectionsoz.wordpress.com/

発表を検討している方は次のアドレスに連絡:connections.oz@gmail.com

********************************************************

Registration is now open for the 2022 Connections Oz conference.

The dates are Wed 14 Dec to Thu 15 Dec.

The conference will be held in person at the Australian Defence College. This will be a face to face conference, however we are also exploring if we can include an online element.

Registration is open. Please use the registration tab above.

https://connectionsoz.wordpress.com/

Please consider this a call for presentations. If anyone has a topic they would like to present, please get in touch via

connections.oz@gmail.com


(了)

2022年9月16日金曜日

彼のウォーゲーミング

 

彼のウォーゲーミング

 

彼のウォーゲーミングを知り、己のウォーゲーミングを知れば、百戰殆ふからず。

 

以下、彼のウォーゲーミングを知る上で有益な資料2件:

 

Dean Cheng, “The People’s Liberation Army on Wargaming,” War on the Rocks, February 17, 2015.

https://warontherocks.com/2015/02/the-peoples-liberation-army-on-wargaming/


Elsa B. Kania and Ian Burns McCaslin, Learning Warfare from the Laboratory—China’s Progression in Wargaming and Opposing Force Training, Institute for the Study or War (ISW), 2021.👍

https://www.understandingwar.org/sites/default/files/Learning%20Warfare%20from%20the%20Laboratory%20ISW%20September%202021%20Report.pdf

 

 (了)

2022年9月15日木曜日

本ブログ最初のページの更新

 


本ブログ最初のページの更新

 ウェブでダウンロード可能であるのに、リンクを貼っていなかった有益な資料にリンクを貼りました。是非有効活用して下さい。

        UK Ministry of Defence, Wargaming Handbook (Swindon, Wiltshire: The Development, Concepts and Doctrine Centre, 2017) https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/641040/doctrine_uk_wargaming_handbook.pdf

        Matthew B. Caffrey Jr., On Wargaming: How Wargames Have Shaped History and How They May Shape the Future (Newport, Rhode Island: Naval War College Press, 2019)

 (https://digital-commons.usnwc.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1043&context=newport-papers)

        Yuna Huh Wong, Sebastian Joon Bae, Elizabeth M. Bartels, Benjamin Smith, Next-Generation Wargaming for the U.S. Marine Corps: Recommended Courses of Action (Washington D.C: RAND Corporation, 2019)https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR2227.html#download

2022年9月14日水曜日

ウォーゲーミングの神髄か、“気づき”から“悟り”へ

 

ウォーゲーミングの神髄か、気づきから悟り

 米海兵隊大学からForging Wargames: A Framework for Professional Military Educationが出版されました。

 https://www.usmcu.edu/Portals/218/Forging%20Wargamers_web.pdf

 編者は元海兵隊・RAND所属で現在ジョージタウン大学ウォーゲーミング・ソサエティ(https://www.guwargaming.org/を主催するSebastian Baeです。

 内容は軍教育におけるウォーゲーミングについてですが、本ブログの筆者はForwardから感銘を受けました。次の件です。

By adding competitive human decisions to the simulation,

wargaming emotionally engages the participants through

competition. As a result, participants in wargames remember

pivotal decisions, points of crisis, and moments of satori for

the rest of their lives. Wargames are inherently experiential, and

therefore wargames are inherently educational, because the

players learn from experience.vii)

 ウォーゲーミングはプレーヤに"気づき"、否、"悟り"を与えてくれる。これこそ究極の"悟り"ではないでしょうか。

 (了)

2022年9月13日火曜日

英国ではウォーゲーミングで博士号が取得できる!

 英国ではウォーゲーミングで博士号が取得できる!

 日本では考えられませんが、英国ではウォーゲーミングは戦略研究(社会科学系)の一分野であり、博士号を授与している大学もあります。

 ここで紹介するのは、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校で博士号を取得したAndrea Haggman氏です。彼は博士研究の一環として、自分で作成したサイバー・ボードゲームを2017年開催の英コネクションズ・ウォーゲーミング会議のゲーム試行会でプレーテストしました。本ブログ筆者もこれに参加し、プレーヤとしてフィードバックしました。彼はこうしたプレーテスターたちのフィードバック等を参考にして博士論文を書き上げ、2年後に美事(みごと)に学位を取得したのです。

 彼は現在、英国のデジタル省でサイバー安全保障およびウォーゲーミングの両方の専門知識を以って国防・安全保障に貢献しています。将来、日本でもこうした人材が育成できれば素晴らしいことではないでしょうか。

 有難いことに、彼の博士論文は次のURLからダウンロードできます。

 https://pure.royalholloway.ac.uk/portal/files/33911603/2019haggmanaphd.pdf

 また、以下はプレーテストの風景です。



2022年9月12日月曜日

米軍のTitle 10ウォーゲームについて

 米軍のTitle 10ウォーゲームについて

 日本ウォーゲーミング研究会(有志)で提供した資料を本ブログでもjpegファイルとしてアップロードしておきます。

 ご参考迄







 (了)

2022年9月11日日曜日

番外編 速報 北朝鮮の新「核ドクトリン」採択に関するQ&A

 番外編

速報

北朝鮮の新「核ドクトリン」採択に関するQ&A

 北朝鮮は202298日に新たな核ドクトリンを公表した。これにより20134月1日に採択された最初の核ドクトリンは無効となった。http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2022-09-09-0003

 

Q:今回の新ドクトリン採択の背景は?

 

A: 背景を知る上で、今年北朝鮮・金正恩体制が正式な樹立10周年を迎えている点、つまりこの間の北朝鮮の国家戦略上の変化を確認しておく必要がある。

 第1に、最初の核ドクトリン(「自衛的核保有国の地位の一層の強化に関する法」http://www.kcna.co.jp/calendar/2013/04/04-01/2013-0401-030.html))が最高人民会議により採択されたのは、201341日であるが、その前日の同年331日には経済発展と核開発の新たな「並進路線」が発出されており、つまり核開発と経済発展が一セットとなっていた。http://www.kcna.co.jp/calendar/2013/03/03-31/2013-0331-024.html

しかし、今回は核ドクトリンが経済発展と切り離され、これまで事実上とされてきた並進路線放棄が正式に確認されたことになる。つまり、同体制が当初国家戦略の目標として掲げた経済発展は結局うまくいかず、核開発が突出する形で先行していることが再確認され、今回の新ドクトリンおよび99日に金正恩の演説は「それでよいのだ!」ということを宣言したに等しい。結局、この体制の過去10年間の成果は、核・ミサイル開発進展にしかなかったということだ。(哀れ、否、自業自得というべし。)

 第2に、2013年に採択した最初の核ドクトリンは、当時の米オバマ政権向けのメッセージであったが、この10年の変化を踏まえて更新する必要があった。例えば、最初の核ドクトリンには核不拡散の件で「核なき世界」実現に貢献する意思がある旨記され、オバマ政権を意識するような表現も見られたが、結局オバマ大統領との首脳会談は実現できなかった。次のトランプ政権では首脳会談を3回実現し、特に最初のシンガポール会談では米国から体制の「安全の保障(担保)」の言質を取ることができたが、到底不可能な米国側の核軍縮には至らなかったばかりか、経済制裁は緩和されず、テロ支援国家再指定も解除されなかった。しかし、北朝鮮の観点に立てば、外交政治面での成果は得られなかったものの、各種ミサイル能力が向上したことから戦術核運搬能力に一定の自信が得られたし、また、来るべきバイデン政権との対話において、交渉条件の好材料にすることもできる。仮にバイデン政権と対話できずとも、トランプ氏が大統領に復帰した場合の備えにもなる。さらに、米中対立およびロシアのウクライナ侵攻の継続により、事実上の中ロによる庇護へも期待できる。

 第3に、核・ミサイル能力の向上を10周年の早い段階で内外に示したかったが、コロナ禍で国内の感染状況への対応に追われることになり、さらにロシアによるウクライナ侵攻、特にロシアの核使用の恫喝による核次元での国際的緊張の高止まり、中国による台湾および日本への軍事的圧力強化の常態化等により、7回目の核実験実施のタイミングを逸している状況が続いたため、99日の建国記念日を契機に宣言政策としての核ドクトリンの更新を先行せざるを得なかった

 第4に、「先制攻撃も辞さない」とする韓国の新政権が米韓同盟再強化および対日関係改善に積極的であることも、主要な背景要因であることは言を俟たない。特に韓国軍は前政権下でも斬首作戦想定を維持しており、近年向上している米国の探知能力を含め米韓軍への北朝鮮が脅威感を高めていても不思議ではない。

 

Q: 今回の「核ドクトリン」更新のポイントは?

 

A: ポイントは2つある。核戦力の指揮統制の充実化および核使用の条件の詳細化、である。まず、核戦力の指揮系統については、金正恩が核使用の最終意思決定者であることは旧ドクトリンから変わらないが、今回は彼を補佐する司令部が明記され、使用決定から執行までの過程が体系化されたことが示されている。さらに、かかる指揮統制体系が危機に瀕した際には、敵の策源地(指揮官を含む)対し自動的かつ即時に核攻撃が行われるとされている。(「指揮官を含む」の部分については、米国から情報等の支援を受けたウクライナのロシア軍指揮官への攻撃の成功を意識したのかもしれない。

 次に、核使用の条件については、具体的に5項目提示されているが、その前に2つの原則が示されている。即ち、(1)北朝鮮は、国家及び国民の安全を著しく脅かす外部からの侵略及び攻撃に対する最後の手段として核兵器を使用する、(2) 朝鮮民主主義人民共和国は、他の核兵器国と協調して北朝鮮に対する侵略又は侵略行為に従事しない限り、非核保有国に対して核兵器を脅迫し、又は使用してはならない、というものである。後者は旧ドクトリンの「条件付き消極的安全保障」の再確認に過ぎない。そして、核使用の5つの条件は次の通りである。

1) 朝鮮民主主義人民共和国に対する核その他の大量破壊兵器による攻撃が行われ、又は差し迫ったものであると認められる時

2) 敵対勢力による国家指導部及び国家核軍司令部に対する核攻撃又は非核攻撃が実施された又は差し迫ったものであると認められる時

3) 国家の重要な戦略目標に対する致命的な軍事攻撃が実行された、又は差し迫ったものであると認められる時

4)戦争のエスカレーションおよび延長を防止し、戦争の主導権を掌握するための運用上の必要性が必然的に高まるような緊急時

5)国家の存立と国民の生命の安全に壊滅的な危機が生じた場合、核兵器による対応が不可避となる事態が生じた場合

作文、否、宣言政策としては比較的よく練られた表現である印象を与える。尤も、核保有国の一般的な核ドクトリンをある程度研究すれば、この程度の作文は可能であろうが。また、「国家の存立云々」は、近年どこかで聞いたような表現だが...。

なお、新ドクトリンは全部で11項目あるが、核使用の使用条件の後にある核戦力の通常の動員態勢、核兵器の安全な維持・防護、核戦力の大量強化・更新、拡散防止等については、文章表現から未整備が示唆され、また、旧ドクトリンから殆ど変化ないものもあり、注目には値しない

 

Q: どこか特定の国の核ドクトリンを模範としている可能性はあるか? 特に米国の「トライアド」にようなものはあるか?


A: 「トライアド」や「3本柱」のような象徴的な表現はない。核戦力の構成として、核兵器(爆弾)、運搬手段、指揮統制体系およびその運用・更新に必要な人員、装備・施設、という表現がみられるだけである。潜水艦技術が低レベルのままで、さすがにそこまでの誇大表現は使えないであろう。

 

(了)

続報 2024年度米コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議参加登録及び宿泊情報(Breaking News: Connections US Professional Wargaming Conference 2024 Registration and Hotel Info)

  続報 米コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議参加登録及び宿泊情報 (Breaking News: Connections US Professional Wargaming Conference 2024 Registration and Hotel Info)   今...