2022年9月30日金曜日

番外編:米経済安保シンクタンクの報告書「ロス・アラモスクラブ」

 番外編

米経済安保シンクタンクの報告書「ロス・アラモスクラブ」

 経済安保系の筋金入りシンクタンク "Strider Technologies, Inc." が公表した報告書「ロス・アラモスクラブ」、現在のところ日本ではまだ知名度は低いようなので、本ブログで簡単に紹介したい。

 同シンクタンクは、中国、ロシア、そして技術の専門家によって創設された米国の経済安保(economic statecraft)系インテリジェンス・シンクタンクである。報告書「ロス・アラモスクラブ」は、1987年~2021年にロス・アラモス国立研究所で戦略的機微技術の研究に従事した総勢162人の中国人研究者が、中国に帰国して祖国の軍事技術向上に貢献した可能性を指摘している。貢献した技術として、超音速技術、ジェットエンジン、地下貫通型弾頭、自律型無人機、無音潜水艦等が挙げられている。また、同報告書には、中心人物やネットワークについても具体名を挙げて記述されている。

 ちなみに、地下貫通型弾頭技術は、米国ではオバマ政権の時代に費用高額を理由に開発が中断されたのではなかったか。中国が同技術を取得し、豊富な開発費でさらに向上させているとすれば...。

 報告書はこちらからダウンロードできる。

(了)

経済安全保障時代のビジネス・ウォーゲーミングのススメ

経済安全保障時代のビジネス・ウォーゲーミングのススメ

 ビジネス・ウォーゲーミング(Business Wargaming)は、1950年代後半、軍事におけるウォーゲーミングの発展を受けて、主に社員の教育・訓練を目的に "business gaming" や "management simulation" として始まったとされる。企業の危機管理能力開発として、オイルショックを契機にシナリオ・プランニングが有用なツールとして活用されてきたように、欧米ではビジネス・ウォーゲーミングもそれなりに注目され、非公開の場で活発に実施されているようである。このことは、各国のコネクションズに参加していればよくわかる。

 このビジネス・ウォーゲーミング、当初の教育・訓練という限定的用途から発展し、今では戦略企画・検証(テスト)、危機管理準備、先見性錬磨、経営転換、人材発掘等幅広く応用されている。

 経済安全保障が益々重要になっている今、不拡散問題における経済制裁に関する諸課題への検討と併せ、政府・軍も産業界・企業との共同ウォーゲーミングにも視野を広げる必要があろう。他方、特に日本の産業界・企業の側も、ビジネス・ウォーゲーミングを危機管理を含む安全保障の観点から意思決定のツールとして積極的に学習する必要があろう。

 政府と企業の連携が不可欠な経済安全保障において、ビジネス・ウォーゲーミングは連携の在り方を含め多くの点で有益な示唆を与えてくれるのではないだろうか。

参考:Daniel F. Oriesek and Jan Oliver Schwartz, Business Wargaming: Securing Corporate Value (GOWER, 2008)


(了)

2022年9月28日水曜日

論考紹介 米国の太平洋抑止構想に見るウォーゲーミングの新展開

 論考紹介

米国の太平洋抑止構想に見るウォーゲーミングの新展開:

日本もこの意思決定ツールを大いに活用すべし

 

 本ブログ筆者の寄稿です。本文は笹川平和財団のサイトでどうぞ。


(了)

 

 

速報 コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" 開催!

 速報

米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" 開催!

 10月19日、1日限りの米コネクションズ・オンライン2022 "ショーケース" が開催されます。参加登録は9月29日開始です。

 詳細はこちらでどうぞ。


(了)


2022年9月25日日曜日

続報 ハンガリーの "コネクションズ"、正式になのるのは来年?

 続報

ハンガリーの "コネクションズ"、正式になのるのは来年?

 昨日速報した本件、担当者曰く「正式に "コネクションズ" となるのは来年かも」。

 いづれにせよ、要は経験ですね。お互いしっかりやっていきませう!

(了)

2022年9月24日土曜日

速報 ハンガリーの "コネクションズ" ウォーゲーミング国際会議

  速報

ハンガリーの "コネクションズ" ウォーゲーミング国際会議

 10月26日、ハンガリーでも "コネクションズ" が開催されます。昨年は内部オンリーだったようですが、今回は「国際会議」です。但し、フランスと同様にConnectionsとは名乗っていません。使用言語は英語・ハンガリー語です。

 詳細はこちらにて。

(了)

2022年9月23日金曜日

ウォーゲーミング専門家に求められる能力:米軍事OR学会(MORS)ウォーゲーミング研修の場合

 

ウォーゲーミング専門家に求められる能力:

米軍事OR学会(MORS)ウォーゲーミング研修の場合

 先日の英コネクションズ・オンラインで提起された論点に、ウォーゲーミングの専門家育成において、デザイン能力と分析能力のどちらを優先すべきか、特に大学等の教育機関において、教師は学生にどちらに重点を置くように教育すべきか、というのがありました。一見無意味な質問と思われるかもしれませんが、就職活動で自分の「売り」をウォーゲーム・デザイナーとするかウォーゲーム・アナリストとするか、若い人たちには悩ましいことかもしれません。

 では、世界各国の政府・国防当局や企業が求めているウォーゲーミング専門家の専門性/能力とは、どのようなものなのでしょうか? ウォーゲーミングは学際的な分野であるといわれます。そうであれば、ウォーゲーミング専門家は人文・社会科学系のみならず、自然科学・工学系の素養もあった方がよいということになるでしょう。

 今回は、米軍事オペレーションズ・リサーチ学会(MORS)ウォーゲーミング専門家研修課程において、研修以前にある程度備えていることが望ましいとされる知識・素養について紹介します。


 研修前にある程度備えていることが望ましいとされる知識・素養:

https://www.mors.org/Events/Certificates/Certificate-in-Wargaming

  • 分析・訓練を目的としたウォーゲームに関する研究、デザイン(計画)、開発、実施、分析、報告に必要な能力、アナリストとしての能力および知識
  • 定量的技能:数学、統計学、データ分析、形式論理、計量経済学、モデリング&シミュレーション(M&S)、オペレーションズ・リサーチ(OR)、ゲーム理論
  • 定性的技能:国際関係学、政治学、経済学、歴史学、軍事史、社会学、人類学、経営学(ビジネス)、教育学、心理学
  • 実践的技能:発表技能、プランニング技能、アート・グラフィックデザイン、フィジカルシステムデザイン、データ収集、ドメイン専門技能、ホビー・ゲーミング
  • その他の技能:エクセル、ワード、パワーポイント、グラフィックデザインソフト、データベース言語・SQL、プログラミング言語※ 粗訳失礼!)

 上記全てが事前に求められるという訳ではないでしょうが、結構ハードルは高そうです

 また、課程のプラグラムは以下のとおりです。

日目 デザイン

l  ウォーゲームとは何か

l  ウォーゲームとレッドティーミングの関係は?

l  デザイナーはいかにウォーゲームをデザインするか?

2日目 アート(デザイン活動としてのウォーゲーム)

3日目 特別トピック

l  戦略的ゲーミング

l  ファシリテーション

l  ゲーム資料の作成

日目:分析

 l  アナリストはいかにウォーゲームをデザインするか?

 l  いかにウォーゲームを分析するか?

日目:実習

 最後に、参加費用についてはMORSのサイトで御確認を。相場については容易に判断できませんが、例えば米戦略国際問題研究所CSIS)シニア向けのプログラム(https://www.csis.org/programs/executive-education/global-policy-courses/wargaming-constructing-simulations-and)よりは安く、ファシリテーション一般のプログラムとほぼ同程度といったところでしょうか。期間や講師陣の顔ぶれも重要な判断指標となるでしょう。

(了)

2022年9月22日木曜日

"The Cycle of Research" から "The Cycle of Learning" へ

 "The Cycle of Research" から "The Cycle of Learning" へ


 ウォーゲーミング界の"大御所"といわれるピーター・パーラ博士が、1990年に提唱した"The Cycle of Research"を発展させて"The Cycle of Learning"という概念を提唱しています。「同論文を引用する際には、DOIを記載して欲しい」由。

Perla, P. (2022). Wargaming  and The Cycle of Research and Learning. Scandinavian Journal of Military Studies, 5(1), pp. 197208. DOI: https://doi.org/10.31374/sjms.124

(了)



2022年9月18日日曜日

速報 豪コネクションズ(Connections Oz)2022参加登録開始!

 

速報
豪コネクションズ(Connections Oz)2022の参加登録開始!


開催期間20221214日(水)~15日(木)

場所:豪州国防大学(Australian Defence College, Canberra

形式:対面(一部オンライン参加も検討中)

参加登録先 URLhttps://connectionsoz.wordpress.com/

発表を検討している方は次のアドレスに連絡:connections.oz@gmail.com

********************************************************

Registration is now open for the 2022 Connections Oz conference.

The dates are Wed 14 Dec to Thu 15 Dec.

The conference will be held in person at the Australian Defence College. This will be a face to face conference, however we are also exploring if we can include an online element.

Registration is open. Please use the registration tab above.

https://connectionsoz.wordpress.com/

Please consider this a call for presentations. If anyone has a topic they would like to present, please get in touch via

connections.oz@gmail.com


(了)

2022年9月16日金曜日

彼のウォーゲーミング

 

彼のウォーゲーミング

 

彼のウォーゲーミングを知り、己のウォーゲーミングを知れば、百戰殆ふからず。

 

以下、彼のウォーゲーミングを知る上で有益な資料2件:

 

Dean Cheng, “The People’s Liberation Army on Wargaming,” War on the Rocks, February 17, 2015.

https://warontherocks.com/2015/02/the-peoples-liberation-army-on-wargaming/


Elsa B. Kania and Ian Burns McCaslin, Learning Warfare from the Laboratory—China’s Progression in Wargaming and Opposing Force Training, Institute for the Study or War (ISW), 2021.👍

https://www.understandingwar.org/sites/default/files/Learning%20Warfare%20from%20the%20Laboratory%20ISW%20September%202021%20Report.pdf

 

 (了)

2022年9月15日木曜日

本ブログ最初のページの更新

 


本ブログ最初のページの更新

 ウェブでダウンロード可能であるのに、リンクを貼っていなかった有益な資料にリンクを貼りました。是非有効活用して下さい。

        UK Ministry of Defence, Wargaming Handbook (Swindon, Wiltshire: The Development, Concepts and Doctrine Centre, 2017) https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/641040/doctrine_uk_wargaming_handbook.pdf

        Matthew B. Caffrey Jr., On Wargaming: How Wargames Have Shaped History and How They May Shape the Future (Newport, Rhode Island: Naval War College Press, 2019)

 (https://digital-commons.usnwc.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1043&context=newport-papers)

        Yuna Huh Wong, Sebastian Joon Bae, Elizabeth M. Bartels, Benjamin Smith, Next-Generation Wargaming for the U.S. Marine Corps: Recommended Courses of Action (Washington D.C: RAND Corporation, 2019)https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR2227.html#download

2022年9月14日水曜日

ウォーゲーミングの神髄か、“気づき”から“悟り”へ

 

ウォーゲーミングの神髄か、気づきから悟り

 米海兵隊大学からForging Wargames: A Framework for Professional Military Educationが出版されました。

 https://www.usmcu.edu/Portals/218/Forging%20Wargamers_web.pdf

 編者は元海兵隊・RAND所属で現在ジョージタウン大学ウォーゲーミング・ソサエティ(https://www.guwargaming.org/を主催するSebastian Baeです。

 内容は軍教育におけるウォーゲーミングについてですが、本ブログの筆者はForwardから感銘を受けました。次の件です。

By adding competitive human decisions to the simulation,

wargaming emotionally engages the participants through

competition. As a result, participants in wargames remember

pivotal decisions, points of crisis, and moments of satori for

the rest of their lives. Wargames are inherently experiential, and

therefore wargames are inherently educational, because the

players learn from experience.vii)

 ウォーゲーミングはプレーヤに"気づき"、否、"悟り"を与えてくれる。これこそ究極の"悟り"ではないでしょうか。

 (了)

2022年9月13日火曜日

英国ではウォーゲーミングで博士号が取得できる!

 英国ではウォーゲーミングで博士号が取得できる!

 日本では考えられませんが、英国ではウォーゲーミングは戦略研究(社会科学系)の一分野であり、博士号を授与している大学もあります。

 ここで紹介するのは、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校で博士号を取得したAndrea Haggman氏です。彼は博士研究の一環として、自分で作成したサイバー・ボードゲームを2017年開催の英コネクションズ・ウォーゲーミング会議のゲーム試行会でプレーテストしました。本ブログ筆者もこれに参加し、プレーヤとしてフィードバックしました。彼はこうしたプレーテスターたちのフィードバック等を参考にして博士論文を書き上げ、2年後に美事(みごと)に学位を取得したのです。

 彼は現在、英国のデジタル省でサイバー安全保障およびウォーゲーミングの両方の専門知識を以って国防・安全保障に貢献しています。将来、日本でもこうした人材が育成できれば素晴らしいことではないでしょうか。

 有難いことに、彼の博士論文は次のURLからダウンロードできます。

 https://pure.royalholloway.ac.uk/portal/files/33911603/2019haggmanaphd.pdf

 また、以下はプレーテストの風景です。



2022年9月12日月曜日

米軍のTitle 10ウォーゲームについて

 米軍のTitle 10ウォーゲームについて

 日本ウォーゲーミング研究会(有志)で提供した資料を本ブログでもjpegファイルとしてアップロードしておきます。

 ご参考迄







 (了)

2022年9月11日日曜日

番外編 速報 北朝鮮の新「核ドクトリン」採択に関するQ&A

 番外編

速報

北朝鮮の新「核ドクトリン」採択に関するQ&A

 北朝鮮は202298日に新たな核ドクトリンを公表した。これにより20134月1日に採択された最初の核ドクトリンは無効となった。http://www.rodong.rep.kp/ko/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2022-09-09-0003

 

Q:今回の新ドクトリン採択の背景は?

 

A: 背景を知る上で、今年北朝鮮・金正恩体制が正式な樹立10周年を迎えている点、つまりこの間の北朝鮮の国家戦略上の変化を確認しておく必要がある。

 第1に、最初の核ドクトリン(「自衛的核保有国の地位の一層の強化に関する法」http://www.kcna.co.jp/calendar/2013/04/04-01/2013-0401-030.html))が最高人民会議により採択されたのは、201341日であるが、その前日の同年331日には経済発展と核開発の新たな「並進路線」が発出されており、つまり核開発と経済発展が一セットとなっていた。http://www.kcna.co.jp/calendar/2013/03/03-31/2013-0331-024.html

しかし、今回は核ドクトリンが経済発展と切り離され、これまで事実上とされてきた並進路線放棄が正式に確認されたことになる。つまり、同体制が当初国家戦略の目標として掲げた経済発展は結局うまくいかず、核開発が突出する形で先行していることが再確認され、今回の新ドクトリンおよび99日に金正恩の演説は「それでよいのだ!」ということを宣言したに等しい。結局、この体制の過去10年間の成果は、核・ミサイル開発進展にしかなかったということだ。(哀れ、否、自業自得というべし。)

 第2に、2013年に採択した最初の核ドクトリンは、当時の米オバマ政権向けのメッセージであったが、この10年の変化を踏まえて更新する必要があった。例えば、最初の核ドクトリンには核不拡散の件で「核なき世界」実現に貢献する意思がある旨記され、オバマ政権を意識するような表現も見られたが、結局オバマ大統領との首脳会談は実現できなかった。次のトランプ政権では首脳会談を3回実現し、特に最初のシンガポール会談では米国から体制の「安全の保障(担保)」の言質を取ることができたが、到底不可能な米国側の核軍縮には至らなかったばかりか、経済制裁は緩和されず、テロ支援国家再指定も解除されなかった。しかし、北朝鮮の観点に立てば、外交政治面での成果は得られなかったものの、各種ミサイル能力が向上したことから戦術核運搬能力に一定の自信が得られたし、また、来るべきバイデン政権との対話において、交渉条件の好材料にすることもできる。仮にバイデン政権と対話できずとも、トランプ氏が大統領に復帰した場合の備えにもなる。さらに、米中対立およびロシアのウクライナ侵攻の継続により、事実上の中ロによる庇護へも期待できる。

 第3に、核・ミサイル能力の向上を10周年の早い段階で内外に示したかったが、コロナ禍で国内の感染状況への対応に追われることになり、さらにロシアによるウクライナ侵攻、特にロシアの核使用の恫喝による核次元での国際的緊張の高止まり、中国による台湾および日本への軍事的圧力強化の常態化等により、7回目の核実験実施のタイミングを逸している状況が続いたため、99日の建国記念日を契機に宣言政策としての核ドクトリンの更新を先行せざるを得なかった

 第4に、「先制攻撃も辞さない」とする韓国の新政権が米韓同盟再強化および対日関係改善に積極的であることも、主要な背景要因であることは言を俟たない。特に韓国軍は前政権下でも斬首作戦想定を維持しており、近年向上している米国の探知能力を含め米韓軍への北朝鮮が脅威感を高めていても不思議ではない。

 

Q: 今回の「核ドクトリン」更新のポイントは?

 

A: ポイントは2つある。核戦力の指揮統制の充実化および核使用の条件の詳細化、である。まず、核戦力の指揮系統については、金正恩が核使用の最終意思決定者であることは旧ドクトリンから変わらないが、今回は彼を補佐する司令部が明記され、使用決定から執行までの過程が体系化されたことが示されている。さらに、かかる指揮統制体系が危機に瀕した際には、敵の策源地(指揮官を含む)対し自動的かつ即時に核攻撃が行われるとされている。(「指揮官を含む」の部分については、米国から情報等の支援を受けたウクライナのロシア軍指揮官への攻撃の成功を意識したのかもしれない。

 次に、核使用の条件については、具体的に5項目提示されているが、その前に2つの原則が示されている。即ち、(1)北朝鮮は、国家及び国民の安全を著しく脅かす外部からの侵略及び攻撃に対する最後の手段として核兵器を使用する、(2) 朝鮮民主主義人民共和国は、他の核兵器国と協調して北朝鮮に対する侵略又は侵略行為に従事しない限り、非核保有国に対して核兵器を脅迫し、又は使用してはならない、というものである。後者は旧ドクトリンの「条件付き消極的安全保障」の再確認に過ぎない。そして、核使用の5つの条件は次の通りである。

1) 朝鮮民主主義人民共和国に対する核その他の大量破壊兵器による攻撃が行われ、又は差し迫ったものであると認められる時

2) 敵対勢力による国家指導部及び国家核軍司令部に対する核攻撃又は非核攻撃が実施された又は差し迫ったものであると認められる時

3) 国家の重要な戦略目標に対する致命的な軍事攻撃が実行された、又は差し迫ったものであると認められる時

4)戦争のエスカレーションおよび延長を防止し、戦争の主導権を掌握するための運用上の必要性が必然的に高まるような緊急時

5)国家の存立と国民の生命の安全に壊滅的な危機が生じた場合、核兵器による対応が不可避となる事態が生じた場合

作文、否、宣言政策としては比較的よく練られた表現である印象を与える。尤も、核保有国の一般的な核ドクトリンをある程度研究すれば、この程度の作文は可能であろうが。また、「国家の存立云々」は、近年どこかで聞いたような表現だが...。

なお、新ドクトリンは全部で11項目あるが、核使用の使用条件の後にある核戦力の通常の動員態勢、核兵器の安全な維持・防護、核戦力の大量強化・更新、拡散防止等については、文章表現から未整備が示唆され、また、旧ドクトリンから殆ど変化ないものもあり、注目には値しない

 

Q: どこか特定の国の核ドクトリンを模範としている可能性はあるか? 特に米国の「トライアド」にようなものはあるか?


A: 「トライアド」や「3本柱」のような象徴的な表現はない。核戦力の構成として、核兵器(爆弾)、運搬手段、指揮統制体系およびその運用・更新に必要な人員、装備・施設、という表現がみられるだけである。潜水艦技術が低レベルのままで、さすがにそこまでの誇大表現は使えないであろう。

 

(了)

2022年9月10日土曜日

Tim Priceの新マトリクス・ゲーム "One China"

 Tim Priceの新マトリクス・ゲーム

One China

 遂にTim Priceの新マトリクス・ゲームOne Chinaが出ました。

https://paxsims.files.wordpress.com/2022/08/onechina1.pdf?force_download=true

 初期設定のアクターは米、台、中、PLA、日、豪ですが、ロシアはオプションで追加できます。中露共同演習やロシア海軍の日本周辺での活動をニューノーマルとすれば、初めから入れたいものです。

 (了)


ウォーゲーミングは戦略・政策文書へ影響を与えるか?(米国編)(その2)

 ウォーゲーミングは戦略・政策文書へ影響を与えるか?(米国編)(その2)


米軍事オペレーションズ学会「ウォーゲーミング課程」教員(元米海軍大学(NWC)教官の回答)

The one example that was not quite national level, but widely discussed was a series of wargames at the naval War College that greatly informed the “Cooperative Strategy for 21st Century Seapower” https://digital-commons.usnwc.edu/nwc-review/vol61/iss1/3/  one example here:

https://www.academia.edu/4165124/Putting_A_Cooperative_Strategy_for_21st_Century_Seapower_to_work_A_Wargaming_Perspective

Of course there are lots of “events” that get called wargames or not depending on the current political affinity for the term, but few if any of which would fit Perla’s definition. Many of which are at least “scenario structured speculative case studies” – or “talking about what we might do if we actually played a wargame about (insert challenging polmil situation here).

米海軍大学教官の回答

I do know that the US "Cooperative Strategy for 21st Century Seapower" in 2007 was heavily influenced by wargaming. See for example https://apps.dtic.mil/sti/pdfs/AD1001890.pdf


※ 結局、NWCの教官たちの尽力でウォーゲーミングが Cooperative Strategy for 21st Century Seapower の作成に貢献したいうことですね。

2022年9月8日木曜日

ウォーゲーミングは戦略・政策文書へ影響を与えるか?(米国編)

ウォーゲーミングは戦略・政策文書へ影響を与えるか?(米国編)

 カナダのマッギル大学のウォーゲーミング専門家であるRex Brynen教授が運営する、欧米のウォーゲーミング界では知らなければ潜りといわれるサイトへの投稿質問。

Does Wargaming influence US Strategy? | PAXsims (wordpress.com) 

 有難いことに、有益な回答を募ってもらいました。

 (了)


2022年9月7日水曜日

速報 英コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議・オンライン初日

 速報:英コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議・オンライン初日

  • 英コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議2オンライン2022開催:9月6日~7日(ロンドン時間)
  • 今回の目玉は基調講演:Rob Johnson, Director of the Secretary of States Office of Net Assessment and Challenge

     Bioは次のURLにて。

    https://www.gov.uk/government/news/announcement-of-new-director-appointed-to-the-secretary-of-states-office-for-net-assessment-and-challenge-sonac

  • 案内は次のとおり:The Connections UK online conference for wargaming professionals is next week! Thank you for signing up or agreeing to support the conference.

    Conference focus. The overarching Connections mission remains ‘to advance and sustain the art, science and application of wargaming’. Within that, the focus for this year's conference is to help up and coming wargamers cross the ‘practitioner desert’ and move towards becoming experienced practitioners. We hope to help in this by providing an opportunity to practice and discuss your art in a safe-to-fail environment, and to learn from experienced practitioners. Hence, we have asked all contributors to shape their presentations and discussions in accordance with this conference focus. This ‘201’ approach means that we are not running the usual Introduction to Wargaming Course. That has been made available on the Connections UK website here.

  • 代表主催者のGraham Longley-Brownによれば、

  • NATOではウォーゲーミング増強で合意

  • 英国の現国防大臣Ben Wallaceはウォーゲーマーであり、NATOの決定に関し英国防省のウォーゲーミング強化に前向き(彼は新首相Liz Trussにより再任)

  • かつ、英コネクションズへその方策の検討を「打診」

  • 英コネクションズ、今後忙しくなりそうだ!

  • また、Johnsonの講演では、ウォーゲームの「査読」が実施されている。Stephen Downes-Martinが米国で提案しているものが、英国防省では既に実施されていることが判明。本日最大のTakeaway!

2022年9月4日日曜日

番外編 故岡崎久彦大使の警告「台湾問題は日本問題」

 番外編
故岡崎久彦大使の警告
「台湾問題は日本問題」

故安倍晋三元総理の
「台湾有事は日本有事」の出所

岡崎久彦著『台湾問題は日本問題
(海竜社、2008年)より
 台湾問題はおそらく21世紀最大の問題となろう。

 冷戦が終わってヨーロッパでは大戦争の可能性はまずなくなった。...

 アジアでは朝鮮半島は最も危険な場所であり、最悪の場合、百万もの人的損害が出るかもしれないが、これも本質的には地域紛争であり、朝鮮半島以外に戦火が拡がる可能性はほとんどない。

 唯一、大国間の紛争に発展する可能性のある地域は台湾海峡である。台湾海峡の平和さえ維持されれば、21世紀は局地戦以外は平和の世紀となるといっても過言ではない。台湾問題を考える時は、それほどに重大な問題と認識して、一時的な問題の先延ばしや経済的損失ではなく、長期的戦略的視野からその解決を考えねばならない(201~202頁) 


(了)

 


続報 2024年度米コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議参加登録及び宿泊情報(Breaking News: Connections US Professional Wargaming Conference 2024 Registration and Hotel Info)

  続報 米コネクションズ・ウォーゲーミング専門家会議参加登録及び宿泊情報 (Breaking News: Connections US Professional Wargaming Conference 2024 Registration and Hotel Info)   今...