2022年10月9日日曜日

核兵器の使用を含むウォーゲーム: 印パ "Showdown" の事例

核兵器の使用を含むウォーゲーム:

印パ "Showdown" の事例

 核兵器使用を含むウォーゲームのデザインには特別な工夫が必要であり、ウォーゲーム・デザイナーが最も力量を発揮すべき対象かもしれない。というのは、核使用については核ドクトリンに関するサブジェクト・マターの専門的知識およびそれへの配慮が求められるからである。本ブログ筆者の周囲では、米ソの冷戦をテーマとした有名な Twilight Straggle: The Cold War, 1945-1989 (GMT Games, 2005) は、プレーヤーに核戦争リスクを意識させるDEFCON(米国版事態認定)が組み込まれている戦略ゲームとして比較的高評価を得ている。本ブログ筆者は2019年にリリースされたデラックス版を自分で購入してプレーしてみたが、まさに米国式事態認定およびそれをめぐる意思決定過程の疑似体験をするには有用と思う。今や、DEFCONは様相を変えてサイバー・宇宙領域にも拡張され、ボードゲーム以外でも応用されている。
 しかし、他方で、かなり「物議を醸しそうな」ウォーゲームもある。例えば、Eric Harveyがデザインした Showdown: The Coming Indo-Pakistan War (Decision Games, 2010)では、核兵器の先行使用(Nuclear First-Use)について特別な条件が付帯されており、さらにそれを正当化するデザイナーによる注釈が付記されている。このウォーゲームでは、国力および核兵器保有数(初期条件ではインド8個、パキスタン6個)を考慮し、パキスタンに有利と思われる条件設定がなされている。

 勝利条件:
  •  インド パキスタンの4都市を占領(但し、パキスタンに1都市でも占領されたら撤退しなければならない。)
  •  パキスタン インドの2都市を占領
 パキスタンによる先行使用:
 インドがパキスタンの1都市を占領した場合(但し、パキスタンが実際に核の先行使用に踏み切るかは、サイコロで決定。この場合、サイコロの目が占領された都市と同一な場合は、保有範囲でいくつ核兵器を使用してもよい。)

 上記より明らかだが、そもそもインドおよびパキスタンの保有核兵器数は少ないし、パキスタンに極めて有利な条件が設定されており、通常レベルと核のレベルの国家の意思決定の相違への配慮が希薄なようであり、その他の様々な重要な要素が単純化されている等、当初から多くの批判が予想された。本ブログではデザイナーであるHarveyが注釈で展開している「言い訳」については詳細を記さないが、このゲームがリリースされた2010年以降、インドが核ドクトリンを変更して先行不使用を放棄したとの報道もあり、こうした変化を考慮してゲーム更新の必要も主張される可能性がある。
 しかし、驚くべきことに、論争を呼びそうなこのウォーゲーム、欧米の一部の軍の教育機関で教材として利用されているのだ! 本ブログ筆者がこの事実を知ったのは2020年のコネクションズ・オンラインの場であるが、本ブログ筆者はこのゲームを2017年の米コネクションズのゲーム・ショップで購入し、既に何度かプレーしていたので内容および問題点を知っていただけに、軍の教育機関で教材として使用されていることに感動してしまった。教材となっている理由は、まさに学生に「究極の意思決定を疑似体験をさせるのに有用」というものだった。
 皆さんも試しては。(現在のところ品切れのようですが...。)


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