2025年1月13日月曜日

Breaking News: Wargaming Deception Working Group Report

 速報

「欺瞞のウォーゲーム化作業グループ報告書」公表

(Wargaming Deception Working Group Report)


 Stephen Downes-Martin博士(米海軍大学)による「欺瞞のウォーゲーム化」作業グループの報告書が公表されました。PAXsimsも併せてご覧下さい。
 なお、本ブログ執筆者の論考も掲載されております。

以下、要旨です。

 欺瞞はあらゆる人間の相互作用に深く根付いており、戦争においても長年にわたり重要な役割を果たしてきた。現代の軍事教義やウォーゲームにも欺瞞は組み込まれており、歴史や理論、実践の詳細な研究が求められる。ウォーゲーム・デザイナーは、スポンサーの目的に応じて、欺瞞をゲームに取り入れるか、明確な理由で除外するかを決定する必要がある。

 本報告書は、以下のポイントを詳細に検討している。

1. 米国合同ドクトリンは軍事的欺瞞を次のように定義している

 「敵を意図的に誤導し、味方の任務の達成に寄与する行動または無行動を取らせる行為である」と定義している。これは、NATOで使用される欺瞞ドクトリンおよびより広範な文献で記述されているものと機能的に同一である。ウォーゲーミングで欺瞞を取り扱う際はこの定義を出発点とすべきであり、他の定義を使用する場合は、その違いを明確にし、その正当性を説明する必要がある。

2. 歴史および現代戦争が示すように、欺瞞は戦争のすべてのレベルにおいて重要な戦力倍増要素である

 したがって、ウォーゲームのスポンサーの目的次第ではあるが、欺瞞は兵站、指揮統制通信情報(C3I)、火力、機動など他の戦争の側面と同等に重要である。欺瞞のドクトリン的定義と理論を基礎に、歴史的及び現代的な欺瞞計画、並びにその成功と失敗を詳細に理解することが、欺瞞を効果的にウォーゲーム化するために必要である。

3. 欺瞞は戦争のすべてのレベル(戦術、作戦、戦略)で発生するが、それぞれのレベルで物理的特徴が異なる

 最も低いレベルでは戦術の速度が速く、例えば掩蔽、隠蔽、迷彩に重点が置かれる。一方で、作戦および戦略レベルでは、大規模な機動の信憑性のある虚偽の外観を作り出すことが含まれる。欺瞞の空間的および時間的スケールの違いを考慮し、作戦レベルや戦略レベルのゲーム内で戦術的欺瞞行動を裁定する必要がある。

4. すべてのレベルに共通する基本は、敵が観察する外観を作り出し、敵の信念を操作し、敵の意思決定を欺瞞者に有利に変更する理論と実践である

 数千年の経験により、軍事的欺瞞には2つの主要なアプローチがある。M型(単一の信憑性のある虚偽を敵に信じ込ませる)とA型(複数の信憑性のある虚偽を用いて曖昧性を生じさせる)である。スポンサーの目的を最も満たすものに応じて、両方のタイプの欺瞞をウォーゲームに統合する必要がある。

5. ウォーゲーミングにおける欺瞞には2つの主要なタイプがある

  1. モデル化された欺瞞(欺瞞の効果がゲームの仕組みに組み込まれているもの)
  2. 実行された欺瞞(プレイヤーが互いに欺瞞を試みるもの)
    ウォーゲーム・デザイナーは、スポンサーの目的を最も満たすタイプまたはその組み合わせを理解する必要がある。

6. 実行された欺瞞ウォーゲームにおいて対戦相手の信念を操作することは特有の問題を引き起こす

 人間の信念はほとんどのゲームが行われる期間よりも長い時間をかけて変化するためである。信念形成と変化の心理学、そしてストレスが信念の変化を妨げる方法を理解することが、実行された欺瞞ウォーゲームをデザインする際に必要である。

7. 実世界の欺瞞作戦の成功には、欺瞞の対象となる諜報機関への浸透が不可欠である

 これは、欺瞞計画がどのように進行しているかを判断し、修正が必要かどうかを確認するためである。したがって、プレイヤーに諜報資産を提供するか、または指標的ゲームでは裁定/制御チームが各側の諜報資産を操作することが必要となる。

8. 欺瞞を含むウォーゲームを制作するための3つのアプローチが特定された

  1. 最初からゲームに欺瞞をデザインする
  2. 既存のゲームを適応させて欺瞞を組み込む
  3. プレイヤーの信念に焦点を当てたゲームから技術を借用する

9. 対象の目的や価値観に関する不十分な情報や誤情報を欺瞞と誤解することは、実世界の作戦における問題である

 これはウォーゲーミングにおいても興味深い探求分野を生む。関連する問題として、プレイヤーが欺瞞を完全に無視する場合や、逆に欺瞞に過度に集中する場合がある。裁定セルとゲームディレクターによる慎重なゲーム管理が、プレイヤーの思考における欺瞞と他のタスクとの適切なバランスを作り出すために必要である。

10. 上記を達成するためには、さまざまなツール(ゲーム理論、心理的および認知バイアス、意思決定分析シミュレーション、確率論、意思決定分析など)に精通し、これらを信念や意思決定の操作に使用する方法を理解することが極めて有用であることが明らかになった。

(了)

 

2025年1月5日日曜日

ゲーム情報:台湾侵攻ゲーム「2045」販売開始(Game Info: Taiwan Invasion Board Game "2045" on Sale in Taiwan)

 ゲーム情報

台湾侵攻ボードゲーム「2045」

(Taiwan Invasion Board Game "2045" on Sale in Taiwan)


 中国による台湾侵攻脅威の高揚を背景に、台湾で新たなボードゲーム「2045」の販売が開始された由。
 台北タイムズ紙によると、同ゲームは20年後の世界を想定しており、色とりどりのアクションカードを用いて戦争の様々な難局を克服するRPG型のゲームらしい。開発者は台湾のMizo Gamesで、昨年9月22日にはプレーテストが実施されたという。
 どなたか、プレーに参加した方、ゲームの内容やプレーの展開等、興味深い情報があればお知らせ下さい。

 Amid growing concerns over the threat of a Chinese invasion of Taiwan, a new board game titled 2045 has been launched in Taiwan.

 According to Taipei Times, the game is set 20 years in the future and takes the form of an RPG-style game where players use colorful action cards to navigate various challenges of war. The game was developed by Mizo Games and a playtest was conducted on September 22 last year.

 If anyone has participated in the playtest, please share any interesting observations and insights about its content or thier gameplay.


(了)

2024年12月27日金曜日

続報 CNN Academy in Abu Dhabi 2024報告 (Continued CNN Academy in Abu Dhabi 2024)

 続報

CNN Academy in Abu Dhabi 2024報告

(Continued CNN Academy in Abu Dhabi 2024)

 例年通り、Rex Brynen教授による標記プログラムの報告がPAXsimsに掲載されました。20ヵ国から132人のジャーナリズム専攻の学生が参加し、シミュレーション(メガ・ゲーム)を通じてジャーナリストに必要なスキルを学びました。
 本ブログ筆者は一日だけ覗く機会を得ましたが、プロやインターンを含むセミプロのレポーターも居たようです。日本からの参加はなかったようですが...。

 次回は来年7月にダブリンで実施される由。

(了)

2024年12月16日月曜日

論考紹介:米国防省の「ウォーゲーミング」への批判(An New Article Critisizing US DoD Wargaming by P. Pournelle)

論考紹介

米国防省の「ウォーゲーミング」への批判

(An New Article Critisizing US DoD Wargaming by P. Pournelle)


 尊敬すべき実務家ウォーゲーマーPhillip Pournelle氏が、

"Does it Matter if You Call it a Wargame? Actually, yes." という論考をCenter for International Maritime Security (CIMSEC)の ブログに投稿し、ペンタゴンのウォーゲーミングを鋭く批判しています。以下、冒頭の要点を紹介します。

  • 米国防省が「ウォーゲーム」と呼ぶものの多くは、実際にはウォーゲームではない。
  • このような用語の乱用により、現実的な影響が生じる。
  • 適切に実施されれば、ウォーゲームに類似した活動は必要かつ価値あるものとなるが、同省は真のウォーゲームとそれに類似した活動をより明確に区別する必要がある。
  • ウォーゲームやそれに類似する活動の種類や形式、それぞれが適切となる場面、それらがどのようなものであるか、そしてそれらが何をもたらすのかを理解することは極めて重要である。
  • ウォーゲームとは何か、そして何がウォーゲームではないのかを正しく理解しなければ、同省は資金、時間、そして人材を無駄にするリスクを抱えることになる。
  • 特に、一定の集団が無構造な議論を行うだけでそれを「ウォーゲーム」と呼び、その結果スポンサーが「それを行ったおかげで準備が整った」と主張するようなケースが増加しているのが問題である。
  • このような主張は自己満足的で独善的であり、組織的な学習を促進するものではない。
  • 長年に亘り、分析・ウォーゲームの専門家コミュニティは、既知の基準と期待値を備えたツール・セットを開発してきたが、国防省のリーダーたちはこれらを熟知する必要がある。
  • それは、政府のスポンサーは分析の大規模なエコシステムをコントロールしているからである。
  • 知識を備えたスポンサーや顧客は、自らの目的に適した設計者やイベントを責任をもって選び、それによって優れた戦略を生み出すことが可能となる。
  • 本稿は、ウォーゲーム及びそれに活動の種類と形式、それらが適切な場面、それらがどのようなものであるか、そしてそれらによって得られるもの(そして同じくらい重要なこととして、得られないもの)について簡単に説明する。
  • なお、本稿は同省の政策支援としてのウォーゲームと分析に焦点を当てたものであり、教育や娯楽のためのウォーゲームを対象としたものではない。

 彼のウォーゲーミングに関する言説は常に舌鋒鋭く、かつ知性に溢れています。そして、愛に満ちているようにも感じます。勿論、これはブログ筆者の偏見ですが。

 とまれ、まずは御一読を。


※ 本ブログ筆者はUS DoDを「国防総省」と訳すことに消極的です。逆に、米国の国防機関に他国のそれと別の和訳を当てる積極的な理由があるのでしょうか。


(了)

2024年12月14日土曜日

速報:英加の伝説的ウォーゲーマー、アブダビに現る(Breaking News: British and Canadian Legend Wargamers in Abu Dhabi)

速報

英加の伝説的ウォーゲーマー、アブダビに現る

(British and Canadian Legend Wargamers in Abu Dhabi)

 
 英国のJim Wallman氏とカナダのRex Brynen教授が、今年のCNN Academy Newsgathering and Storytelling Simulationの指揮監督のためにアブダビに来ています。アブダビでの実施は今年で3年目だそうで、最近はメキシコ・シティダブリンでも行われた由。昨年のアブダビでの記録は、YouTubeで視聴できます。
 大手メディアがジャーナリストの教育・訓練のためにこうしたシミュレーション(メガ・ゲーム)を企画し、一流のウォーゲーミング専門家がデザイン・実施を担当し、それが長年継続し、そして欧州・南米・中東でも行われているとは、知りませんでした。

Jim Wallman氏
(メガゲームの神)

Rex Brynen教授
(Connections Northの総帥)

 今日は4日目。12月17日迄続くそうです。いずれ、PAXsimsに成果の一部が紹介されるでしょう。楽しみです。

 ジャーナリストのためのシミュレーションが一番必要な国の1つは、やはり日本ではないでしょうか。特に、有事の危機コミュニケーションにおいては、メディアの役割は重要です。多くの場合、有事シミュレーションではメディアは脇役ですが、メディアを主役としたシミュレーションをやれば、メディア側ももっと多くの改善や学習の機会を得ると思います。いかがでしょうか?

(了)
 


2024年12月12日木曜日

速報:伝説的ウォーゲーマーのインタビュー(Breaking News: Interview with a Legend Wargamer)

 速報

伝説的ウォーゲーマーのインタビュー

(Interview with a Legend Wargamer)


 英国戦略軍のブログに、伝説的ウォーゲーマーであるTom Mouat少佐のインタビューが掲載されました。
 同少佐は今年のピーター・パーラ賞(The Peter Perla Wargaming Award)の受賞者であり、日本にマトリクス・ゲームを教えて下さった恩人でもあります。
 インタビューは多くの示唆に富みます。以下、印象に残った発言(下線部):

Interviewer: What is your favourite wargame and why?

Tom: I don't have a favourite game, because if you keep playing in a game that you know how to win, you are simply being a bully, but I do have a few highlights. One game is Advanced Squad Leader, which is hideously complex, and impossible to play in a reasonable time. It serves as a fantastic example of how not to design an effective game for military use.


 こういうところ、この方らしいです。


(了)

2024年12月3日火曜日

続報:コネクションズ・ノース(カナダ)・プロフェッショナル・ウォーゲーミング会議登録開始!(Breaking News: Connections North 2025 Registration Now Open!)

続報

2025年コネクションズ・ノース(カナダ)・プロフェッショナル・ウォーゲーミング会議登録開始!

(Connections North 2025 Registration Now Open!)

 先日お知らせした2025年2月15日開催のコネクションズ・ノース(カナダ)、登録が開始したのでお知らせします。

 登録はこちらで

(了)

Breaking News: Wargaming Deception Working Group Report

  速報 「欺瞞のウォーゲーム化作業グループ報告書」公表 (Wargaming Deception Working Group Report)   Stephen Downes-Martin博士(米海軍大学)による「欺瞞のウォーゲーム化」作業グループの 報告書 が公表されました。...